タイライフ おがしゃ

THAI LIFE OGASHA 旅すること 

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旅人の予言

目覚めるとここは何処なのか、いつも不安な気持ちになる。長旅を続けていくと時空に歪められて居場所が分からなくなる。

 私は自分の鼓動の高鳴りで目を覚ました。自分がベッドに居ることに安堵する。隣で眠っている人はいない、自分だけだと確認して再び眠りにつく。しかし、目を閉じても眠れそうになかった。胸騒ぎがするのだ。昨日からの出来事を振り返るもよく覚えていない。

 

 私はベッドから起きだしバスルームに向かった。バスタブには女性が全裸で横たわっている。顔を近づけると息をしていなかった。長く鮮やかな金髪の北欧系の女性だ。不思議と自分には驚きがない。まるで夢でも見ているようにーーそれにしても綺麗な女性だ。

 

  私は少し戸惑い気味に着替えを済まし、ボストンバッグの荷物をまとめ、所持品を確認してホテルのフロントに電話をかけた。

 

「これからチェックアウトをお願いしたいんだが・・・・・・

「承知しました。ミニバーはお使いでしょうか?」

「いや、使っていない」

「それではキーをお持ち頂きフロントへお越しください」

「わかった。ありがとう。それから、バスルームに見知らぬ女性が死んでいるようなんだが・・・・・・どうしたらいい?」

「そうですか・・・・・・そのままでお願いします。係の者が清掃に伺いますので。申し訳ございません」

「そう、わかった」

   私は洗面所でバスタブで死んでいる女性を横目で見ながら顔を洗い髭を剃って歯を磨いた。朝の6時近くだが、私はフロントにキーを渡してチェックアウトした。

 

「バスルームの件、申し訳ございませんでした。最近多いんですよ。時空の歪みをコントロールできなくなっているようなんです。それでは良い1日をお過ごしください。ありがとうございました」フロントの女性が笑顔で礼を言った。

 

 2050年現在、地球では時空の歪みが自然発生しており、制御装置を開発していたのだが更に強いブラックホール・エネルギーによって今の科学技術では完全コントロールは不可能であった。このホテルのように、ある一定期間の地域に限ってなのだがバスタブで人が死んでいることが度々起こっていた。最初の頃は驚いていたが、次第に慣れてくると誰も気にしないようになって冷静に処理するようになっていた。

 

 バスタブの死体、それも女性で運が良かったのかもしれない。自分のベッドの横に男性死体が現れることもあるのだ。清掃係は、死体処理袋に詰めて業者に送るらしい。ベッド下の死体を気付かず数ヶ月過ごしたケースもあるとのことらしい。

 

 今の時代は臓器再生技術が発達し、脳以外であれば永遠の命を保つことが可能である。もちろん自分のクローンも容姿変更で生成可能だ。人々は自分の容姿をまるで着せ替え人形のようにーーアバターのようにチェンジして生きているのだ。

 

 私はホテルの抽斗に入っていた手紙をポケットから取り出した。

 

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ババ・バンガの予言。

 

  • 2016:イスラムが欧州に侵攻し、我々がよく知る欧州は存在しなくなる。壊滅的な攻撃が何年も続き欧州に人気がなくなる。
  • 2023:地球の軌道が変わる
  • 2025:欧州の人口がゼロに近づく。
  • 2028:人類が金星に上陸。新エネルギーを発見。
  • 2033:極地の氷が融け、世界の海面が上昇る。
  • 2043:欧州はイスラムカリフの国となり、首都はローマとなる。世界経済はイスラムの支配の下に発展する。
  • 2046:いかなる臓器も培養できるようになる。臓器交換が最良の治療法となる。
  • 2066:アメリカが初めて気象兵器を使ってローマを奪還し、キリスト教国家に戻る。
  • 2076:共産主義が欧州と世界各地に復活する。
  • 2084:自然が復活する。
  • 2088:数秒で感染する新たな疾病が生まれる。
  • 2097:感染が抑制される。
  • 2100:人工太陽が地球の暗い面を照らす。
  • 2283:タイムトラベルが可能になり、異星人と接触する。
  • 2291:太陽が冷え、人類は再度燃焼させようと試みる。
  • 2302:宇宙の重大な法則と秘密が発見される。
  • 2304:月の秘密が発見される。
  • 2378:新人類が急速に成長する。
  • 3005:火星で戦争が発生し、火星の軌道を変える。
  • 5079:世界の終わり。

                    20XX年記

 

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 今は2050年。この予言はほとんどが当たっていない、2046年頃から臓器再生技術で人々の寿命が比較的に伸びたこと以外は・・・私は手紙を一読してから丸めてごみ箱に捨てた。「くだらない!」自分宛の手紙かと思っていたのだ。

 

 私は電気自動車に乗ってストックホルムからヨンショーピングへ向かった。人工知能による自動運転である。 

 

タイムスリップ

 ここは病院だと気づいた。左手にはチューブが沢山巻かれている。目が霞んでいてよく見えない。意識は朦朧としている。何かを伝えようとしても言葉が出ない。声を出して誰かを呼ぼうとしたが・・・・・・

「ああ、あうう・・・・・・

自分では「誰かいますか?」と言っているのに言葉にならない。

苦しい・・・昨日のことが思い出せない。

 

 ベッドから降りようとして、床に転げ落ちた。立ち上がれない、匍匐のような形で入口付近まで進んだ。誰もいないのか?ブルーのカーテンで仕切られたベッドの足がやたら多く見えていた。誰もいない。方向感覚がおかしい。目をつぶり床に伏せた。左手に刺されたチューブの針を引き抜くと血が溢れ出した。

「血を止めなければ・・・・・・

一瞬で自分の状況が分かった。集中治療室だ。

 

 自力で入口のドアを開け、這いずりながら廊下へ出る。多くの死体が転がっていた。そして濃霧が・・・

 

 突然ブザーの鳴る音。兵士が通路の端に立っていた。何語を話しているのか聞き取れなかったが、自分の血だらけの左手を見て、医師を呼んでいるようだった。

「捕まってしまうのか・・・・・・」そんな意識が甦る中で再び私は気を失った。

 
 昨日はスウェーデンのホテルを早朝チェックアウトして、ストックホルムからヨンショーピングまで来ていたはずだ。私が生きている世界は人工知能とロボットにより物理世界を形成している。ブラックホール・エネルギー制御と人類の魂が解明されるには更に長い年月が必要となる。
 
 私が目覚めると看護婦は医師を呼びに行った。集中治療室ではなく一般の病室に移動したようだ。周りは白いカーテンで覆われている。微かな記憶が甦ってきた。スウェーデンのヨンショーピングでは「Savoy Hotel Jonkoping」に宿泊していたのだが・・・・・・
宗教概念に関する主要国の会議会場でもあった。私は会場近くのバーでビールを飲んでいた。その会場がテロリストに狙われて爆発が起きたのだ・・・私はどうやら爆発に巻き込まれたようだ。
 
 医師が来て、ライトを眼に当てる。「聞こえますか?聞こえたら右手を動かして」・・・・・・右手を動かす。しかし言葉が出ない。「はい・・・・・・大丈夫ですよ」医師は看護婦に何かを指示していた。医師は看護婦に私には聞こえないように話をしていた。その後、看護婦は注射を打った。私は再び意識が遠ざかる。
 
 今は西暦2050年のはずだが・・・・・・時空の歪みでタイムスリップしているかもしれない。 西暦2046年に人類が『死』という概念が無くなる身体器官の再生が可能になった。
 主要国では宗教上の問題で、死からの再生に何らかの規制をする必要があることを議論していた。しかし、対立する宗教間で統一されたルールを決定することなどできず、人の命が金銭で取引されるような時代に逆戻りしたかのようだった。
 
 戦争が起こり地球環境は大きく変わってしまった、汚染された地球上の生物を人間が食することなどできなくなった。唯一生命維持用の液体が人々に供給されていた。
 

 西暦2020年に発生した新たなウィルスによって男の子が生まれても精子を持たないという事実が次第に判明していった。人口が減少し、地球規模でウィルス対策を練られていた矢先に身体器官の再生技術が確立されたのである。

 

タイランドで目覚める

 私は目覚めると、病院ではなくホテルの一室だった。2050年2月にスウェーデンでテロ事件に巻き込まれて負傷を負ったはずだ。しかし、左手や頭は負傷していない。どうやら一人のようだ。やけに蒸し暑い。ファンが緩やかに回っている。
 
 私は起き上がり、洗面所へ行くとガラス張りのトイレ・シャワーがあった。まるで南国のホテルのようだ。私は鏡をのぞき込んだ、髭が伸びているが自分であることに安堵する。 シャワーを浴び髭を剃った。長い間眠っていたような感覚だ。
 
 部屋には45L位のバックパックが置かれていた。中身を確認すると金属製の小さなダイヤルケースがあり、自身の指紋と暗証番号で開けると複数のパスポートと古い100ドル札の束が入っていた。 
「ここは何処なのか、今は何年なのか?」
 
 TVのスイッチを入れた。ニュースが流れる・・・・・・タイ語だ。今は何年なのか? 金属製ケースに入っていた長方形の情報端末を指紋認証して起動した。アップルマーク・iPhoneだ!
 
 iPhoneの時計が示していた。2017年2月3日・・・バンコク! 東南アジア系の顔をしている私は日本国籍のパスポートを選択して生年月日を確認する。今が2017年なら36歳の設定だ。どうやら時空の歪みでタイムスリップしたようだ。いや、私は捕まって情報を引き出される前に、仲間が時空変換装置を私に発射したのかもしれない・・・・・・
 しかし、覚えていない。
 
 私は諜報員としてある組織に所属している。仲間が荷物を準備してくれたようだ。
着替えをして、iPhoneからのメッセージを受け取り2000ドルを財布に入れた。メッセージを読む。ある女性に会わなくてはならなかった。また難易度の高い、別の任務も私に課された。
 
 私はホテルをチェックアウトする。ナナにて1000ドルをバーツに両替してタクシーに乗り込む。「パタヤのヒルトンホテルに行ってくれ」運転手は笑顔と共に「5000バーツ OKね! 」「2000バーツ、ダメなら違うタクシーにするよ」
ネットで相場を調べていた。「ミスター2500バーツ OK! ね」タクシーは飛ばして1時間半でパタヤのヒルトンホテルまで着いた。 
 
 ラウンジである女性を見つけなければならない。首の後ろの項に漢字で「希望」と彫られタトゥーの女性だ。
 
 TVにて臨時ニュースが流れていた。米国トランプ大統領が叫んでいた。「北朝鮮ぶっ殺す!報復だ!核ミサイルで消滅させてやる!」中指を立てている。なんだか慌ただしい。TV画面からはトランプ大統領の周りがやけに冷静であることが見て取れた。きっといつものことなのだろう。
 
 パタヤ ヒルトンホテルのラウンジでポニーテルの女性を探していた。しかし、首の「うなじ」に「希望」というタトゥーを入れた女性を見つけるのは困難を極めた。髪を普通に垂らしていたら見つけることなど不可能なのだ。
 
 TVの臨時ニュースからは北朝鮮は弾頭ミサイルを米国AKに発射したようだ。人的被害はないようだが・・・・・・はやく彼女を見つけなければ・・・・・・2時間程ラウンジにいたが結局見つけることはできなかった。
 
 マスコミの予測に反してアメリカ大統領はクリントンじゃなかった。2016年11月クリントン大統領候補が支持率で次期大統領と予想されていた。しかし、彼女のアルツハイマーが急速に進んでいた。最終選挙目前にFBIからの私用メールの件も重なり病状も悪化してクリントンは選挙中に倒れたりもしたのだ。
 
 米国の大統領はトランプ氏となった。どちらが大統領になろうがアメリカは衰退していく運命にあった。
 
 そして、ロシアのプーチンが予測していたような世界が訪れたのだ。それは米国の狂気。狂気の世界。
 
 ロシア・プーチン大統領は核戦争に備え、モスクワ市民を守る為の地下核シェルターを既に構築していた。既に2016年に核戦争への体制は整えていたのだ。アメリカが仕掛けてくれば報復する体制はもちろんのこと、敵対する国への先制攻撃も整えていた。 
 
 米国と英国は戦略的テロ組織を創設した。しかし、英国はその作戦の費用負担に難色を示し、議会合議制によって途中で中止した。孤立した米国は単独でテロ組織に軍事支援を開始したのだ。
 2017年にテロ組織・シリア反政府軍は当時のオバマ氏と国防大臣であったクリントン氏の二人によってアサド政権を倒すために創られた組織であることが暴かれた。
世界を味方につけようと米英国工作員により欧州でのテロ計画を隠していたことも明らかになった。ロシアと国交断絶させる為に「アラブの春」も全て軍事産業国・米国の策略だったと報道された。 
 
 最終的にロシアとシリア同盟国がテロ組織・反政府軍に勝利した。世界は同盟国を含めて米国を非難しだしたのだ、しかし、トランプ大統領が戦争への矛先を同盟国に向けて発信した。 
 「オバマがやったことだ!俺は知らんぞ。お前ら俺を批判するなら同盟国でも、ぶっ殺す!」またもや中指を立てていた。トランプ大統領らしい絵になっていた。周囲の幹部は笑いとともに大きな拍手。呆れる同盟国。孤立する米国。TVはエンターテイメントとしてお笑いのようなテロップが流されていた。
 
 世界の米国同盟国は次なるリーダーがロシアであることを確認したのである。日本も米国からロシア・プーチン大統領との親交を深めていった。米国はトランプ大統領により既に世界から信用を無くしていた。そして、世界を台頭する中国は米国の衰退で軍事的活路を見出していた。ところが、北朝鮮の偶然なる弾道ミサイル発射ミスで、米国AK本土を爆撃してしまったのである。
 

 北朝鮮を支援する中国軍部とキム・ジョンウン最高指導者を非難する政権との間で混乱が続き、軍事クーデターが発生した。更に複雑なことに、米国のトランプ大統領は北朝鮮への報復で平壌へ爆撃機の発進を命令したのだ。そして、中国軍が政権を把握して北朝鮮に動き出した。

 

2017年・・・混沌とする世界 

 私はパタヤ・ヒルトンホテル内のバーカウンターでビールを飲んでいると、背中までかかる長い髪でタンクトップにデニムのショートパンツ姿の欧州系女性がバックパックを背負い歩いていた。 Tシャツに「希望」と描かれていた。
「ハーイ、ミス・キボウ! 一緒に飲まないか?」私は声をかけてみた。
「カズミ?」
彼女は一瞬戸惑いを見せ、私の顔を見てから笑顔で言った。
「ハーイ! カズミ!」
彼女は私が探していた女性のようだった。どうやら彼女は私の顔を知っているようだ。
金髪でブルーアイの笑顔が素敵なスウェーデン人だ。名前はカリータ。見た目からは30歳前後だろう。うなじに漢字で「希望」と彫ったタトゥーの女性? 長い髪の彼女にどうやって?
 
 とにかく彼女を見つけることができた。いや、彼女はなぜか私の顔を知っていたのだから私が探す必要なんてなかったはずだ。組織の仲間は冗談がきつい。
 
 私達はヒルトンホテルにチェックインし、彼女に今迄の出来事を話した。2050年にスウェーデンのヨンショーピング、Savoy Hotel Jonkopingでテロ事件に巻き込まれ、病院に運び込まれたこと。そして、気がついた時には2017年のバンコク・ナナのグランドプレジデントホテルにタイムスリップしていたことなど・・・・・・
 
 彼女は深く考え込んだ後に言った。「私は予めあなたの顔写真を見ていたし、あなたに会ってこれを渡せという指令に従っただけ。変ね、そもそもカズミのSF的な話は信じられないわ、冗談でしょ」カリータは四角い箱を渡した。そもそも彼女にとって2050年からタイムスリップして来た男など空想の世界であろう。
箱を開けると「ピカチュー?」というキャラクターがバネの力で飛び出した。
「何か意味があるのだろうか」私は呆然と佇んでいた。
・・・・・・
カリータは不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。
 
 もし時空の歪みが再び起こらなければ、私は2017年以降を生きて行かねばならない。2050年の地球に比べたら自然豊かで魚介類や肉も野菜も安心して食べられる時代なのだから幸せなのかもしれない。しかし、これから世界で起きる出来事を変えることはできない。したがって、歴史の事実を自分の目で確認することしかできないのだ。
たとえ人類の2/3が滅亡するとしても・・・・・・ 生き残れる地域と時代は歴史でわかっている。私はこの時代のバックパッカーになって核の安全地域へと旅に出ることを決意した。米国トランプ大統領の北朝鮮への宣戦布告は・・・・・・
 
 米軍の爆撃機は中国・北朝鮮軍に撃ち落とされていった。ついに米軍と中国・北朝鮮軍によって戦争への口火が切られた。同盟国の軍事行動への準備が開始される。敵か味方か、ロシアの出方が注目された。東南アジアの軍事政権国家による不穏な動きも始まっていた。世界情勢は錯乱していた。核攻撃に備えて米国同盟国はミサイル防御システム(MD)を各地に配備していった。
 

スパイ同士の探り合い

 男と女の探り合いで昨夜は眠ることなどできるはずがなかった。激しい男と女の闘いだった・・・・・・カリータと私は互いに諜報機関のスウェーデンSAPOに所属しているのか、ロシアのFBSの二重スパイではないかと探り合った。もちろん彼女の弱点を貫きながら・・・・・・彼女はロシアでもスウェーデンでもそんなことはどうでもいいと言っていた。
 
 西暦2050年の未来からタイムスリップした謎の人物に興味を持った。そして、この世界で生き延びる道を自分に託したのだ。 
「カズミ!私はあなたについていく。だから・・・・・・
カリータにはアジア系の血が混ざっているのだろうか。
悲しくなるほど愛おしい。二人は深い谷に落ちていくように愛し合った。
 
 窓からの朝日が二人の影を微笑ましく照らしていた。諜報員同志は心を互いに隠しているが、私から未来を知った彼女は心の奥に決意したことを読み取れた。歴史を変えることはできない。それならば、これから起こることを理解して生き抜くことだ。この地球で生きていくことを先決する本能が彼女の中で優先された。組織権限という罠に嵌った人は心の隙を貫かれて必ずと言っていいほど過ちを犯す。組織とはそのように創られてきている。永遠の組織など存在しない。
 
 パタヤは乾季で快晴だった。私たちは遅い朝食を取り、これからの計画をホテルのプールサイドで話し合った。アジア人の男と北欧のファランの女性との組み合わせが珍しいのか、周りは振り返って我々を見ては通り過ぎていった。パタヤそしてジョムティエンにカリータと過ごした。まるで新婚旅行のように・・・・・・
 
 ウォーキング・ストリートは中国人観光客でごった返していた。中国内で起きた軍事クーデターなどまるで他人事のように過ごしている。
 
 TVのニュースで米国のトランプ大統領が何を血迷ったのかロシアへの宣戦布告に米国議会が大統領弾劾手続きを進行させた。中国・北朝鮮と戦いが始まっている最中にだ。
 
 米国は大統領が不在という状況になった。副大統領が政権を支配した・・・・・・しかしトランプと変わらなかった。 
「核戦争だ! ロシア・中国・北朝鮮もろとも核でブッ殺せ!」
 
「カリータ、そろそろだ、オーストラリアに行こう」カリータは素直に頷いた。 
「カズミ、これから始まるのね・・・・・・
私は彼女の肩を抱き、これから起こる世界の悲劇をカリータと一緒に生きていくという決意をしたのである。 
 
 2016年10月タイ、プミポン国王が亡くなってから、息子であるマヒ・ヴァチラロンコルン王子が国王に就任するまではタイ全土に不穏な動きが訪れていた。既に軍事政権のプラユット暫定首相がすべての実権を掌握していたのだが、ベトナムは中国と急速に親交を深めるタイ・カンボジア・ラオスに対して特に警戒を深めていた。
 
 タイ国内におけるテロ事件は以前にも増して頻発に発生して外国人の犠牲者が出ていた。何か国際的な陰謀さえ感じるくらいに外国人・日本人の居住地域のスクンビット地域でさえ標的となっていった。 
 
 今は2017年の3月、タイ軍事政権の不穏な動きが始まっていた。大量の戦車が首都バンコクの一般道を走ってカンボジア方面に移動していた。
 
 私たちはパタヤからバンコクに行く。バックパッカーの旅行者として姿を隠した。
二人が所属する政府機関は・・ある指令を残して音信不通となった。
「カズミ、ここに居てはだめなの?」
辛辣なカリータの言葉である。タイは戦場化されない。しかし・・・・・・ 私はカリータに俯きながら言った。
「カリータ、オーストラリアへ行こう。ここにいては生き延びれない」カリータは怒ったように私に言った。
「どうして戦争を止めることができないの? どうして逃げなければいけないの?」
「逃げる? ・・・・・・カリータ! もう引き返すことができないんだ。これは私に下された最後の命令なんだ!」逃げて生き延びること、これが私へのメール内容なのだ。
そもそも大戦の原因はなんだったのだろう? 人々が終末を望んでいるからなのか。
 
 大きな津波が人類を世紀末へとゆっくりと押し流していく。戦争は中国から東南アジアそして中東・欧州に飛び火していく。
「これから・・・・・・狂気の世界が始まるんだ」
「そんなばかな・・・・・・」カリータは声を荒げた。
 
 狂気のリーダーが世界を一瞬で破滅させる。米露中が代理戦争から直接の武力衝突へと突入していくなかで・・・・・・もう、歴史を変えることなどできない・・・・・・
 
 第三次世界大戦は2017年4月に勃発した。 
 

第三次世界大戦後

 
 既に2017年に始まった第三次世界大戦から3年が経過していた。地球環境は核ミサイルによる影響で激変していた。ポールシフトが起き北極と南極の軸は移動した。欧州を中心に中東全域そしてアジアと中国が廃墟となった。そして米国は一部を残してほぼ滅亡したと言っていいだろう。北半球国がほとんど人が住めない状況になった。
 
 人が住める地域は海に沈んだのだ。日本は南半球にズレている。地殻移動が発生した。氷河期が核により発生している。動物が飢えで死んでいる。植物が枯れている。
海岸が魚の死骸で溢れている。
しかし、人類が生き延びた地域がある。
 
 3年経過後に核シェルターに逃れたロシアの人々は、核汚染されていない北欧地域に移動をはじめた。科学者たちはスウェーデンに地下住居を構え、人類再生への研究を重ねていた。地球は徐々に自然治癒が始まってきている。しかし、地球環境の変化によって生まれた新ウィルスが生物に徐々に感染していった。子供を残せないウィルスだった。
 
 私とカリータは生き残った。氷に覆われたオーストラリアで暮らしている。太陽は次第に地上を照らし始めた。
 
 比較的赤道に近い地域の人々と凍てつく寒さの中で核シェルターに逃れた人々が生命を維持していた。地球の自然治癒まで3年以上が経過していた。ついに第三次世界大戦は終了した。生き延びた人々が勝者という位置づけだ。
 
 しかし、2020年以降もウィルスは蔓延していた。シベリアでは不思議な大きな穴がいくつも開いていた。地殻移動により大陸の多くの地域は海に沈んだ。
 

西暦2046年のバンガ予言は実現した

 身体器官の再生がスウェーデンで成功した。人類は死という概念を失ったのだが、同時に子孫を残せないというウィルスに感染していた。
 
 私はもう70歳近くになっていた。人生の大半をカリータと共に地下都市で生きてきた。今はスウェーデンの地上都市で生きている。カリータは身体器官再生で今でも30歳前後の肉体だ。しかし、魂の寿命は存在する。輪廻転生も存在する。魂が進化を望むとき。そして、生きることを望まなくなった時に人々は死を迎えるようになっていった。
 
 ホテルのバスタブで彼女は息を引き取った。
「いつまでも美しいカリータ。愛するカリータ。ありがとう」自然と涙が溢れ、私は跪いて神に祈りを捧げた。
 
 もうすぐ、時空の歪みからタイムスリップした自分がベッドに現れるはずだ。私はカリータに最後のキスをしてスウェーデンのホテルの部屋を出た。抽斗に手紙があった私宛の手紙をポケットに入れて。
 
 ホテルを出てから、雨が降り出し近くのコーヒーショップで手紙を読んだ。以前読んで「くだらない!」と丸めて捨てた手紙の記憶が蘇った。
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ババ・バンガの予言。
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  • 2051年:新たなる世界が訪れる
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 この予言は今までの出来事が2050年まで全て的中していた。手紙の予言が変わっているのだ! やっと自分に理解できた。歴史を変えられる可能性があることを、人々を救うことが可能であることを。
 
 今は2050年、私への任務とはこのことだったのか?
 
 私は急いでホテルに戻ることにした。
 
 タイムスリップした自分に伝えなければ・・・君が新興宗教の教祖になるのだと!
 

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 完  
 
 
この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。