流星 おがしゃのブログ

冒険という夢を追いかけて世界を旅するフラッシュパッカー ゼロからのブログ

キューボール #10 道

10

 青森県弘前市のアメリカンバーにあるブールバーでは酒に酔った米軍の海兵隊とロシア人の軍関係者と思われる輩が騒ぎを起こしていた。店にいた彩花と一巳はカウンターで勘定を済まし店を出ようとしたところで海兵隊に絡まれた。

 

「よう!お二人さん。ビリヤードはやらねーのかよ」蒸気たった顔からは彩花をなんとかしようという魂胆が見えていた。一巳は一瞬で相手を殴り倒した。騒めく店内は海兵隊の仲間たちが一巳に襲いかかる。そしてロシア軍人らしき仲間も一斉に米軍・海兵隊と取っ組み合いになった。彩花も童顔女子ながら一瞬で相手を倒していく。警察のパトカーのサイレンが近づくと彩花と一巳は、既に地面に倒れているファラン達を踏みつけながら店を出て行った。

 

 彩花と一巳は青森発2:40ー函館着6:20 に乗るためにミニクーパーを走らせていた。

『結局、博士は現れなかったね』一巳が息を切らすことなく呟いた。彩花はミニクーパーを走らせながら悔しそうに行った。

『だからぁ、私の感なの! 絶対もう少しのところだと思ったのに・・・・・・

『まあ、いいじゃないか。それにしても彩花は強いなぁ』

『当たり前でしょ! こう見えても武闘家なのよ』

『そうは見えないんだけどなぁ』一巳は車内に流れていた音楽を宇多田ヒカルのアルバムに自分のスマートフォンから変更した。

『宇多田ヒカルっていいよね、なんか血筋が音楽家だからかな。父親の宇多田照實がベトナム戦争に参戦していたって知ってた?』 

『えっ、そうなの。傭兵だったの?』

『詳しくは知らないけどさ、なんか俺たちと同じ匂いがするんだよね』

『ふぅーん、音楽プロデューサーってことしか知らないわ』

『藤圭子は知ってるよね。母親だけど。演歌歌手、えっ知らない? 精神を患って新宿の高層マンションから飛び降り自殺したの・・・・・・

『そーなんですかー』

 

いつしか車内は宇多田ヒカルの「道」が流れていた。悲しくもあり優しさをも与えてくれる母への想いの唄。重苦しさから解放されるように曲は流れて行った・・・・・・

 

 真っ赤なミニクーパーは「津軽海峡」に寄り添って走って行く。いつしか若い頃の藤圭子が通った道かもしれない。月明かりに照らされた二人にはこれから起こることなど何もわからない。ただ、組織の人間として生きていくことに不安と疑念を持ち始めたことは確かである。誰のために生きているのか、そして自分がこの世で何を与えることができるのだろうかと。

 

私にはあなたを奪ってまで幸せになる勇気がないの。

素直な言葉にできないわ。

悲しい心は胸を締めつける。

今でなければできないの。

だから、あなたを信じて生きていきたい。

心の震えを止めることができないの。

抱きしめて。

いつまでも。

いつまでも。

あなたと・・・今夜だけ。

今夜だけ。