流星 おがしゃのブログ

冒険という夢を追いかけて世界を旅するフラッシュパッカー ゼロからのブログ

5年間の旅 #1

 死亡猶予期限、あと五年。

 それまでになんとかしねえと人生が終わってしまう。このまま仕事努めは勘弁だ。

 癌を宣告された訳でもねぇ。ただ街の手相占いに言われただけだ。信じようが信じまいが勝手だ。

 太陽が道路に照りつけ更に温度が上昇している。汗まみれになった進藤祐介は、会社で飛び込み営業をしている。祐介は昼から営業している高級個室風俗の「エンジェル」へ突然のように入っていった。

 髪をオールバックで固めた蝶ネクタイの受付の中年男が汗まみれの30歳前後と思われる祐介を下から上へ目線を移しながら言った。

 「いらっしゃいませ、ご指名はございますか?」

 少し緊張しているのか声が上擦って祐介は言った。

 「あのね、この店の経営者に会いたいんだけどさぁ」

 中年男は少し戸惑いながらも丁寧に返事をした。

 「あの何の御用でしょうか?」

 祐介は営業鞄からチラシを取出して言った。

 「タイムスケジュール管理システムですよ! ほら今の時代、急に都合が悪くなって出勤できなくなったとか多くないですか? このシステムなら時間管理ができて急な欠勤でも他の人に代わってもらえることができるんですよ」

 

 受付の中年男は態度を一変して言った。

 「おらおら、営業の邪魔なんだよ! この野郎! からかってんじゃねぇぞ!」

 「いきなり何すんだよ! いてぇよ」

 祐介は店からつまみ出された。

 「兄ちゃん、もう来るんじゃねぇぞ! はっはっはっは」

 

 なめてんじゃねぇよ。まったく。くそ暑い中ここまで来たのには訳があるんだ。

 祐介は再び店に入った。

 「てめぇ、まだ懲りねぇのか?」

 受付の中年男が目を吊り上げて拳を固めている。

 「おじさん客だよ今度は客。ここさぁ初めての店だから、まずはシステムから教えてよ」

 受付の中年男は態度を一変して女性の写真とシステムの説明を丁寧に終えた。

 「じゃぁ、このレイナちゃんにする」

 受付の中年男にこのレイナちゃんは人気で予約待ち90分と言われて、祐介は待合室でぼんやりしていた。

  突然血だらけの女が店の階段から転がるように降りてきた。

 「キャー、誰か助けてぇー」

 女性の泣き叫ぶ悲鳴と共に店の受付が一瞬で火の海になる。

 パンツ一枚で鉢巻をした大柄な男がサバイバルナイフと火のついた松明を持っていた。液体のペットボトルがパンツに挟まっていた。

 「神は偉大なり、神は偉大なり、神は‥‥‥」

 

 受付の中年男は、その大柄な男に挑んだが、液体のガソリンを浴びせられ火をつけられた。中年男は火だるま状態で悲鳴を上げながら店の外に飛び出していった。

 

 気がふれたような目つきをした大柄なパンツ一枚の男は、祐介を見ると一瞬不適な笑顔を見せて、パンツを脱ぎ棄ててサバイバルナイフを自分の心臓めがけて刺した。

 

 店内にはガソリンを撒かれた異臭が混ざって息をするのも苦しい状態になっていた。

 

 消防車のサイレントと悲鳴が鳴り響く。

 

 祐介は営業鞄と床に転がっている飛び出したジュラルミンケースを拾い、悠然と店を後にした。

 五年後だから今は死ねないんだよ。まったくなんてことだ。このジュラルミンケースが拾って欲しいと輝いていたからな。祐介は唾を地面に吐いて呟いていた。

 

 後ろを振り返るとビル全体が火の海になって窓を開けて助けを求める人が狂ったような炎に包まれていた。

 誰も祐介が店から出てきたことを気にしていないようだった。まるで存在してなかったかのように。

 

  この日は強い風が吹いていて、火は周辺ビルにまで燃え広がっていた。

 

 今日は7月21日。

 

 祐介はスマートフォンから今日の報告書を入力し、メールで退職願を上司に連絡した後、スマートフォンの電源を切って蒲田のアパートへと向かった。

 

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