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涙あふれる 小説 #1

その男は幸せな家庭を持ったと思っていた。

毎週天気の良い休みの日には家族で動物園や公園を訪れてピクニックシートを広げて妻の手作りのお弁当を皆で食べていた。

 

皆が幸せそうな笑顔。

小さな子どもが二人と若き日の妻。

優しいお姉ちゃんと弟。

 

そして家族に迎えられた可愛らしい犬のチワワ。

よくある幸せな家族風景。

 

年月が流れ、子供達が成長していく中で家族のふれあいが徐々に薄れていく。

 

その男は仕事で昇進とともに仕事が忙しくなり家族との会話が少なくなっていった。

子供への教育という共通点でしか会話が成り立たなくなった。やがて、その男は更に昇進し単身赴任によって後に大きな影響を家族に及ぼした。

 

中学受験のための塾通いは熾烈な子供達の戦いがある。

成績順にクラスが分けられ、子供達の中で成績順ピラミッド組織が形成される。

底辺にいる多くの子と最上位にいる僅かな子には軽蔑の眼差しと尊敬の眼差しが行き交う。成績が落ちることを恐れて正常な精神を失う子もいる。

 

首都圏の中学受験生は難関大学の東京大学や国立医学部を最終目標に御三家と言われる私立中高一貫校を目指す。

 

その男の二人の子供は有名私立中学校に受験戦争で勝利した。

 

しかしやがて長女は進学校クラスでの競争に精神的ダメージを受け、話すための言葉を失った。

メンタルクリニックに通うことになったのだが完治には至らなかった。大学は東京・京都大学を目指していたが、最終的に浪人して都内の有名私立大学に入学した。

 

長男は都内御三家に入学したが高校1年時に自殺未遂をして高校を退学した。原因はいじめでも何でもなく、この日本社会に己が生きていく理由が見つからないという哲学的遺書を残した。

通信高校に編入したが家に閉じこもり一人で考えることも多く、成績は伸びることがなかった。

やがて大学入試で有名私立大学に入学した。

 

二人の子供は親元を離れ一人暮らしで、親からの仕送りとアルバイトで生活していた。

 

長女は大学4年に大手マスコミ企業の内定をもらいながらも必須科目を落として留年が決定した。その後、弟と同じように自殺未遂をした。

もう日本では就職も生活もできない体になってしまった。

 

その男の人生の中で何かが崩れ記憶が消え去っていった。

 

やがて、その男は教育熱心な妻とも別れ一人で暮らすようになった。

 

その男の目から自然と涙があふれる。

 

日本という歪んだ社会にその男は命をかけた戦いの決意をした涙だった。

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